投稿

11月, 2025の投稿を表示しています

埠頭

作者:沼熊  確実に沈められる場所を探すところからはじまった。遠浅の砂浜を果てしなく押していくわけにも、四つ足をそれぞれ持って神輿みたいに運ぶわけにもいかない。かといって崖から落とすわけにもいかない。水に沈む前に、まちがって岩にでも鍵盤が当たれば大惨事だ。村の人間全員が起きてしまうような音だ。彼らはどこからともなくやってきて、まちがいなく、僕たちを問い詰めるだろう……。  だから、場所は慎重に探す必要がある。  O市の近郊に車で入りやすい埠頭が数ヶ所あって、僕たちは借りた車でそれらを順番にまわった。条件に合うところはなかなか見つからなかった——ひとつは真下の海が浅すぎ、ひとつはコンビニエンスストアに近すぎ、ひとつは水面から突き出すごつごつした岩が悪印象だった。そうやって、紙に印刷した候補にひとつずつ赤ペンでバツをつけていった。  紙に地図を印刷したのなんていつぶりだろう?  おそらくまだ、あの田舎町にいたときのことだ。僕は父親が印刷した海浜公園の地図に、赤ペンでマルをつけていった——魚とりのしかけをセットした場所に。あれから、僕は故郷を出、父親は亡くなり、それから一緒にすごす人間は、すくなくとも、 かなり 劣悪になった。いつから、こうなったんだろう。 「そこ、左」 「え?」 「あーあ。次の信号で大通りを右に入って、でぐるってまた回って」 「ごめん、ぼーっとしてた」  助手席の彼女はそっぽを向いて、窓の外に煙草の煙を吐き出そうとしていた。カーシェアの会社に車内での喫煙がばれたら大問題になるが、彼女は生まれながらの悪人だったので、そんなこと気にしないのだ。彼女については僕はあまり詳しいことを知らない。あくまで、今回沈めようとしているピアノを介した関係というだけ。  僕は大通りを右に入り、ぐるりと回ってまたさっきのバイパスに入った。潜り込んだ、といったほうが似合う。土曜日で車の流れは多く、道の両脇には釣具店や葬儀屋が見える。こいつら、こんなにとろとろ走って、どこに何をしにいっているのやら見当がつかない。  僕がそういうと、彼女は、「皆海になにかを捨てにいっているんだよ」といった。僕は内陸育ちだったので、そういうこともあるのだろうかと思った。  最後の候補地、すなわちまだバツがついていない埠頭にたどりつくには、舗装された道から降りる必要があった。僕はこんどは正しいタイミング...