大阪
作者: 沼熊 どこかで曲がるところを間違えたにちがいなかった。いつまでたっても御堂筋線に到達しないからである。彼は御堂筋線が地下鉄であることは知っていた。だが、この梅田駅ときたら、上下の方向感覚すらも怪しくなるようなしろものなのだ。地下一階を歩いているかと思えば、いつのまにか地上階に接続されている。そこから平坦な道が続いていると思うと、さいしょから二階を歩いていることになっている。これでは、事情がわかる人間にたずねるしかない。 JRの改札付近では、通勤の人間が、巨大な波となって彼とは反対方向に歩いていった。彼はまるで古いアクションゲームの主人公であるかのように、注意深く人波をかわさなければならなかった。彼は少し歩みを緩め、いったい皆、迷わずに目的地に向かっているのだろうか、と考えた。みな驚くほど早足で通り過ぎていった。そしてその人波は、 駅ビルの商業施設フロアをまわり、再び改札に入っては、また同じ流れに沿って出ていった。 彼は自動改札のレーンが並ぶ脇に駅員がいる窓口を見つけた。改札の内側には、なんらかの事情で自動改札を通過できないものたちが長い列をなしていた。不自然に長い列だった。駅員はひとりひとりの言い分をきき、それぞれに対して解決法を手際よく示し続けた。ときどき、並んでいる人々の後ろをぬけがけする者たちがいた。駅員はそれらに驚くほど興味をしめさなかった。 いつまでたっても駅員の窓口が開放されないので、彼はだんだんと疲れてきた。彼がそうしている間にも、早足の群れが自動改札を通り抜け、周辺をぐるぐると回り、また改札に吸いこまれ、しばらく経つとまた出てきた。窓口では、それとは比較にならないほどゆっくりと、人々が内側から押し出されていった。 彼は駅員に気づいてもらえるよう、少し窓口の方に近づいた。もしかして、駅員が彼の姿に気付けば、内側から押し出される人々の群れを一時停止し、彼のために時間を割いてくれる可能性があった。しかし駅員は面倒そうな表情を浮かべ、彼に、改札の内側からの列の最後尾に並ぶように、手振りで指示を出した。彼はそれに従い、窓口に並ぶ人々の脇を逆方向に侵入していき、列の最後尾についた。 列の最後尾は、若い男の二人組だった。男たちは、彼が改札の外側から入ってきたことに驚いた様子であった。 「どないされたんすか」と、男のうちの一人が言った。 「御堂筋...